2009年6月26日金曜日

ある朝

ある朝、重いまぶたを開く・・・。日本人作家の本に突っ伏したまま電気も消さずに寝てしまった・・・。悲しいかな。追い討ちをかけるかのように、顔についた大きな本の跡に気がつく。シャワーをあびても目が覚めない。
コーヒーの粉はほとんど残っていない。コーヒーカップに気持ちを逆撫でされた気分になる・・・。外、ドアの向こうに待っている外の世界…絶望の天使が与えてくれた2分間、外に出たくないけれど、外に出られないけれど、でも出かける。

バー、ミルクをほんの少しだけいれたカフェインたっぷりのコルタード。テーブルととカウンター誰がオーダーを取りに行くか口論しているウェイター。怒鳴り声、非難、言いがかり、やりかけの仕事、不公平なチップの分け前…。オーダーしたチーズサンドイッチのことなんてすっかり忘れてしまっている。空っぽのお腹、首筋に直撃する冷房の風。買い物かごを持った巨体の婦人が、スロットマシーンに必死にすがり付いている。

カウンターに一ユーロを置いて、新聞をそっと持ち去る。オーダーの通らなかったサンドイッチへ、そして、アレックス ウバゴ(歌手の名前)へのささやかな復讐。

一番最初に通りがかったタクシーを止める。ドアを開けた瞬間に葉巻の匂いに打ちのめされる・・・。ラジオ テレ タクシー、行き先を3度繰り返す。でも、葉巻の運転手はラジオのボリュームを下げようとは思わないらしい。

ラジオから流れる・・バーゲン中の洗面用具、プラスティックの容器にはいったハモン、ソファの卸売りの値下げ・・・パントハ(歌手の名前)が戻ってくる。さらに安い洗面用具。ラジオのパーソナリティを笑わせるアレバロ(時代遅れなコメディアン)のジョーク。

新聞をぱらぱらとめくる。落ちたけれど無傷だった牛。町内会の夏祭りのサンドイッチにサルモネラ菌が発見されたこと。道端で発見された23歳の精神障害者殺人にかかわったと、訴えられた未成年。彼女を虐待したあとに、火をつけた。まだ生きていたのに。

やっと目を覚ます。8行でつづられた世間の痛みで目を覚ます。

葉巻の運転手に、やっぱり考えが変わったと伝え、もとの場所に戻ってくれと伝える、家に帰ると、しわだらけのシーツのベッドに、悲しい日本作家の本に。

でも、ウエルバのぺルリータ(時代遅れの歌手の名前)に聞くのに夢中な運転手には、まったく伝わっていない・・。

(2003年8月25日:スペイン語原文記事Una mañana 翻訳by Totteokiバルセロナ

2009年6月25日木曜日

症状

暑い・・・車のエアコンの温度を下げる。世界中の人が暑さのせいで同じことをしているに違いない。エアコンから放出されるガスがオゾン層の穴をさらに大きくする・・つまり、

地球の温度が上がって、気温が上がる。さらに車のエアコンの温度を下げる・・・と結局・・・Etc.

フィラデルフィアで、新しい”マトリックス”の映画を3度連続して見た少年たちが24時間営業店の店主の韓国人を殺した。保守派のロビーはフィラデルフィアでこの映画を禁止することを提案していた。

15歳の少年たちが牧師の格好をして空中を舞う意気消沈したキアヌ リーブスの整った顔を何度も何度も見ることに文句をつける人はいない。
でも少なくとも、ブニュエル監督が”Un perro andaluz"を発表したとき、映画館の椅子を燃やそうとした人がいた。
たぶん、問題の原因はポップコーンにあるのかもしれない。


私の住んでいる地区に最近姿を現したスプレーの小さな落書きに思わず同感せずにいられない。
ひとつには、”落書きはやめましょう”とあり、次は”壁はやめましょう”そして”すべてをやめましょう”。

この瞬間にでも、この角、この通り、ごみでいっぱいのコンテナーをまがると、
車はすべて姿を消してしまっていて、そのまま巨大な空虚が私と私のスプレーを飲み込んでしまうじゃないかと怖くなってしまう。


尊敬するJohn Bergerの”なぜ映画館と違って劇場ではキスをするカップルがいないのか”という質問の答えをまた探してみる。

たぶん劇場では、観客は舞台の上の俳優たちに始終見られていると思い込んでいるから、キスをするのはきっと恥ずかしく感じてしまう。

映画館でも、もちろん、カップルは見られていることは感じているけれど、でも、相手もなく微笑む巨大なブラッドピットの前でキスをすることに、心のどこかで喜びを感じでしまうんだろう…。


(2003年6月24日:スペイン語原文記事 Simtomas 翻訳by Totteokiバルセロナ

2009年6月19日金曜日

映画は何の役に立つのか?

いつも“映画監督”としての仕事を、まったく仕事をするにはふさわしくない姿勢で取り組んでいるように思う。

“撮影”ということそのものに対する純粋な思い入れと、“映画で世界を変えることなんでできないし、誰かの考え方を変えることも、生きるのを楽にすることもできない”という苛立ちが組み合わさる。 
そして私の中で“映画なんてなんの役にも立ちやしない”と確信に変わる。

でも、これは間違いだったよう。ほかの多くのことと同じように。 つい最近、映画を通して

私たちに日々起こっていること理解すること、
分厚いレンガで作られた日常生活をを砕くこと、
そして生きていくことをすこし楽にすること
癒すこと、

ができるという手ごたえのある証拠をやっと手に入れた。

ちょうど一週間前、“Mi Vida sin Mi(邦題:死ぬまでにしたい10のこと)”、を観たという17歳くらいの女の子が私に近づいてきた。 彼女は泣きはらした様子もなく、私のまなざしに物怖じもぜず、ただ私の手を強く握って、いった。“この映画を作ってくれてありがとう。数年前になくなった父の沈黙の意味が、この映画でやっとわかった。 この2年間、父が病気のことを話さなかったことをずっと責めてきた。だけど、やっと彼の気持ちがわかった。映画を通して、彼の痛みを感じ、生きることかできた。まるで彼が私に”これでやっとわかってもらえたかな?“って話かけているみたいに。



彼女を見つめながら、言葉がでてこなかった。彼女を思わず抱きしめたい気持ちになったけれど、恥ずかしさが先にたってしまって、できなかった。お礼をいう間もなく、彼女はいってしまった。ほんとうはそうしたかったのだれど。

この少女

この映画をみてから、“人を感動させるため、心の琴線に触れるために”映画監督になると決めた“という手紙をくれたをビコ地方の少年、

この映画を見終わったあと”流した涙をおぎなうため“1.5リットルのミネラルウォーターを飲んだという婦人、

主人公ののアンが二人の人を同時に愛せるのが理解できない、といったボーイフレンドと映画を見た後別かれてしまった少女
(きっと彼は私のことを恨んでいるに違いない・・・) 、


私の映画は“鎮静剤”ではないといった私の友人 、

大切なことを先延ばしにしてはいけないという思いに駆られ、撮影直後に幼馴染のガールフレンドに電話をかけに走ったベルリンのジャーナリスト 、

映画館の前でシカゴをみるか“Mi Vida sin Mi”を見るか迷っていて、私に説得されて私の映画をみたカップル、
(映画が気に入らなければチケット代とポップコーンはご馳走すると約束したけれど、その必要はなかった。)

人生は少なくともこの1時間半は意義のあるものだったと、お礼をいってくれた私よりもずっとシャイな少年、

この映画に涙を流し、心の中で号泣した人たち:映画の中に一杯につまった、彼らひとりひとりのストーリー、なんでもない普段の暮らし、感動する出来事、生まれてくるストーリーたち、そしてそこから起こる出来事、その所有権は私にはない。それは映画を作った人間。映画を見た人、そして自分のストーリーをそこから創っていく人たちの共有物。

実際の生活と映画の中で作り上げられた現実を、ごちゃ混ぜにしてくれる人たちのおかげで、私はフィクショの力を改めて信じることができるような気がする。

手紙を通して、微笑みを通じて、沈黙を通じて、壊れやすく、やわらかく、瞬間的であり、名づけがたいけれど、でも力強いメッセージは、映画は役に立つものであるということ私に言い聞かせる。

これからは今までと同じ気持ちで撮影に望むことはできない。映画のない人生は私にとって全く違ったものであるにちがいないのだから。

これからどうするかって?
毎朝のように“もう映画決して映画を作るまいと思いながら目覚める。それが事実だとしたら?

映画を作るという私にとっては特権に等しい欲望に見捨てられたと、とっさになって、やっとの思いでたったひとことつぶやいてしまうに違いない。 映画を作ったあと必ず私を駆り立てる、おなじ疑問とおなじ恐れと、おなじ焦り・・・。
しばらくするとその感情は消えてしまう・・・・次の映画を作るまでは。

映画をつくることは、ある種の恐れを忘れさせてくれ、そして、何か新しいものに立ち向かう手助けをしてくれる。
そして現実と欲望の間に深い溝があることにも気づかせてくれる。

もし、テレビ映画から出てきたような政治家だけが存在したとしたら?
スタンレー、キュービックの“Paths to glory”やテレス マリックの“The thin and red line”をダブルフィーチャーしたみたいな。そうすればきっと、きっと争いのない平和な世の中になるだろうけれど。
でもそんな人たちを見ていると、きっと退屈すぎてタイトルクレジットをみながら居眠りしてしまうに違いない・・。

(2003年6月26日:スペイン語原文記事
Para que sirven las peliculas? 翻訳by Totteokiバルセロナ